2026.05.21

「良い音」とは、派手に目立つ音だけを指すものではありません。私たちは、バンドや録音の中で輪郭と強弱が残り、長く弾いても追い続けられる密度、反応、まとまりを持つ音に目を向けたいと考えています。
単体で弾いたときには良く聴こえる。けれど、録音してみると何かが残らない。バンドの中に入れると、思ったより前に出てこない。長く弾いているうちに、耳も手も少し疲れてくる。
そういうとき、もっと派手な音、もっと分かりやすい変化を探したくなることがあります。変化が大きいほうが、良くなったように感じやすいからです。
ただ、私たちは「良い音」を、単体での派手さだけでは見ていません。バンドの中で埋もれにくいこと。録ったあとに輪郭や強弱が残ること。長く弾いても、耳と手が追い続けられること。その奥にある密度、反応、まとまり、空気感まで含めて、良い音を考えたいと思っています。
派手に変わったかどうかより、録った後に何が残っているか。
beyond tube preamp 2s も、原音を大きく置き換えるためではなく、今あるギターやアンプのキャラクターを残しながら、前段で音の密度や反応を整えるための選択肢です。
「良い音」とは、派手な音なのか。
この問いは、機材やプラグインを触っている人ほど避けにくいものだと思います。単体で弾いているときは気持ちいい。音量も十分にある。高域も出ている。低域も足りているように感じる。
それでも、録ってみると何かが残らないことがあります。ミックスの中に入れた途端、弾いた強弱が見えにくくなる。バンドの中で、音の輪郭が薄くなる。単体では目立っていた成分が、文脈の中では思ったほど役に立たない。
このとき、足りないのは派手さではないかもしれません。
良い音を単体の目立ち方だけで見ると、判断が少しずつずれていきます。大きく変わった音は分かりやすい。けれど、録音やバンドの中で残る音は、同じ方向とは限りません。
派手な変化を探すこと自体が悪いわけではありません。
強いキャラクターの設定にすると、弾いた瞬間の反応が分かりやすくなることがあります。EQを大きく動かすと、音が前に出たように感じることもあります。新しい機材を足せば、耳が新鮮に反応することもあります。
ただ、その変化が「文脈の中で残る音」につながっているかは確認が必要です。
バンドの中では、ギターだけが鳴っているわけではありません。ベース、ドラム、鍵盤、ボーカル、空間系の響きが重なります。録音では、アンプシム、IR、EQ、コンプ、リバーブなどの後段処理も入ります。
その中で残るのは、単体で派手に聴こえた成分だけではありません。弾いた強弱が音に残っているか。音の芯が細くなりすぎていないか。前段で密度や反応が整っているか。そうした部分が、あとから効いてきます。
良い音を「残り方」で見ることがあります。
バンドで埋もれにくい音とは、単に大きい音ではありません。強い帯域を出せば済む、という話でもありません。必要な場所に輪郭があり、弾いた強弱が残り、他の音と重なったときにも存在感が消えにくいこと。そのほうが、演奏の意味が残りやすい。
録音で残る音も同じです。後段の処理は大切です。EQやコンプ、空間系は、録音された素材の見え方を整えてくれます。ただ、素材の時点で強弱や密度が薄く入っている場合、後段で足せるものには限りがあります。
だから、前段を見ます。
ここで言う前段には、演奏由来の部分と、信号チェーン由来の部分があります。ピッキングの深さ、ミュート、コードの当たり方。そこに加えて、ギターから後段処理へ渡るまでの信号のまとまり方。どちらも、録ったあとに何が残るかに関わります。
派手な音を探す前に、まずは録った素材を聴いてみる。輪郭が残っているか。強く弾いた音と弱く弾いた音の差が残っているか。コードの面がつぶれずに見えるか。そこを見ると、良い音の判断軸は少し変わります。
弾いていて気持ちいい音には、いくつかの方向があります。
ひとつは密度です。音が軽く散らばらず、弾いた分だけまとまって返ってくる感覚。もうひとつは反応です。強く弾いたときだけでなく、弱く弾いたときにも音の表情が残ること。さらに、空気感やまとまりがあります。耳に当たる部分だけが強いのではなく、音全体が自然に続いていく感覚です。
長く弾ける音は、派手な瞬間だけでは決まりません。短いフレーズでは良く聴こえても、何度も弾いているうちに手が追いにくくなったり、耳が疲れて判断しづらくなったりすることがあります。
私たちが見たいのは、音がどれだけ目立つかだけではありません。弾いたニュアンスが残るか。音のまとまりが続くか。録った後にも、演奏の温度が薄くなりすぎないか。
“気持ちよさ”は、派手さよりも、そうした細部に宿るものだと考えています。
beyond tube preamp 2s は、原音を変えない増幅を目的としたプリアンプです。フラット時はほぼ素の音のまま使う前提があり、ギターやアンプのキャラクターを消さない方向を持っています。
私たちはこの製品を、原音を大きく置き換えるためのものとして見ていません。既存のギター、アンプ、デジタル環境のキャラクターを残しながら、前段で密度や反応を整え、後段へ渡る音の可能性を引き出すための選択肢として考えています。
もちろん、前段を見直すことと、機材を足すことは同じではありません。演奏由来の部分もあります。後段で整えるべき部分もあります。デジタル環境そのものを否定する話でもありません。
それでも、録ったあとに何かが残らないと感じるなら、単体で派手に聴こえるかだけで判断しないでほしい。弱く弾いた音、強く弾いた音、コードを鳴らしたときのまとまり、録った後の輪郭。そこに目を向けると、前段の役割が見えやすくなります。
真空管、前段、デジタル環境、開発の背景も、最後はここにつながります。
良い音とは、派手に目立つ音だけではありません。バンドや録音の中で残り、長く弾いても追い続けられ、弾いた人の強弱や空気感が薄くなりすぎない音。私たちは、そこに良い音の手触りがあると考えています。
良い音を、派手に変わるかどうかだけで判断すると、録音やバンドの中で大切なものを見落とすことがあります。輪郭、強弱、密度、反応、まとまりが残っているかを見ることで、機材や前段設計の判断軸は変わります。
まずは、単体で派手に聴こえるかではなく、録った後に音の輪郭や弾いた強弱が残っているかを聴いてみてください。